一言書評 〜夢枕獏作品の感想〜


餓狼伝X,XI(2000/01/05)

 魔獣狩り同様、長年月読み続けている格闘小説・餓狼伝。一気に2冊読み終えての感想。凄い!やっぱり凄い!!そう思うしかない。とてつもないパワーを秘めた文字の力に圧倒されるばかりである。10巻は漢・丹波文七の闘いと挫折、11巻は太い漢・松尾象山の底知れぬ強さと、不敵な笑みを絶やさず、文七を絶望へと叩き落とした姫川勉の知られざる秘密。最も単純な、そして難しい命題、「誰が一番強いのか」を考えさせずにはいられない。面白い。

 餓狼伝を語るとき、常に引き合いに出してしまう作品がある。「修羅の門」という格闘マンガだ。どちらも非常に好きな作品。若干修羅の門の方が後発だったように記憶している。たった一人の、何の後ろ盾も無い格闘バカが、日本最大の空手の総本山とその館長、そして日本の誇るプロレス団体と伝説的レスラーに、一辺に喧嘩を売る。そしてついには両者を巻き込み、日本格闘界全てを巻き込んだ格闘大会を開催させ、さらに海外へ挑み、バーリ・トゥードへと至る。

 大雑把に言うとどちらもそんな内容だが、ひとつだけ大きな違いがある。喧嘩を売った主人公だ。修羅の門の陸奥九十九は、「無敵・無敗・超人」。どんな敵が現れようとも、最後には必ず勝つ強さを秘め、そして実現してしまう。そこに爽快感・魅力がある。対する本作餓狼伝の丹波文七には、そんな超人的な技もなければ、負けない要素などもない。ありのままの人間なのだ。人間くさくて、最強を求めつつも、強大な敵を前にして怯え、ボロ屑のように破れ去り、どん底まで落ち込むが、そこから歯を食いしばって這い上がり、また次なる挑戦をしていく。マンガのキャラクターやヒーローではなく、等身大の人間そのもの。そこにとてつもない魅力がある。挫折と立ち直りを繰り返して、自分の限界に挑戦する姿は、見ていて清々しい。一緒に落ち込んだりもするけど、ここからどうやって這い上がるのか?それを考えるだけでワクワクする。次も読み進めたい、そう思わせる力がある。だからやめられないんだと思う。面白い。

 また暫く読むまでブランクが空くかも知れないが、それでもそのときにはまたその熱さがこみ上げてくるに違いない。そう確信している。次巻にも期待したい。


新・魔獣狩り(鬼神編,魔導編)(99/10/11)

 いつもながら一気に読み終えてしまう、長い長い物語である。今回も私としてはかなりのハイペースで読み終えてしまった。20年。18冊。未だ終わる気配さえ見せない。凄い作品だ。なぜなら未だその面白さのレベルを維持してるからだ。この物語は奇跡のように面白い。作者が言うまでもなく、そう言い切れる作品だ。

 サイコダイバーシリーズ。この作品に出会って、読み始めて10年以上が経つ。作品の作りとしては、最初に長い長い登場人物紹介があり、それぞれが微妙に絡み合い、近づき遠ざかりを繰り返しながら進む長い長い序章があり、ようやく「新・魔獣狩り」という本編に辿り着き、それまで各作品で主人公として活躍していた人物達が一堂に会した。それから既に6冊。長い長い物語である。ここへきて、重要な登場人物はまだまだ増え続けている。どこまで成長し、どんな最後を見せてくれるのだろう?楽しみである。

 主人公達の魅力は深い。精神意識世界を自由に泳ぐ“サイコダイバー”、九門鳳介、毒島獣太。逆に己の肉体を持ってその存在を誇示する、文成仙吉、腐鬼一族の梵、金剛拳の有堂岳。老いて尚底知れぬ強さを見せる男たち、獣師・猿翁、玄道師・佐久間玄斎、神明会会長・白井狂風。物語の中核となる密教術の使い手、平高野の天才・無痛症の美空、そして開祖・空海。追い求められる徐福の裔・鬼奈村、御子神、腐鬼。さらに今回ケセンが加わる。ここまで来てさらに主人公を増やすのでは、読む側が混乱を来すのではと危惧したが、全くの杞憂であった。面白さは衰えるどころか加速してしまった。また物語の分岐点が増えてしまったことになる。なんということか。それでも、きっと10年後も20年後も、この物語を読み続けていくのであろう。

 夢枕獏の作品は勢いがある。面白い。迷わず薦めることが出来る。次もまた、一気に餓狼伝を読み終えてしまうだろう。期待している。